神経疾患症例への投与①
患者様(チワワ、4歳)はけいれんや起立困難があり、立たせてあげた場合でも頭を傾かせ、ぼーっとしている、歩行できない、転ぶなどの行動異常の症状がでていました。検査の結果、壊死性白質脳炎という中枢神経疾患でした。この病気を含む炎症性の中枢神経疾患は発症原因がわからないことがほとんどです。免疫の異常が関係していると考えられています。非常に難しい病気で、予後もかなり悪いものになります。治療としては免疫の抑制力が強いステロイド処方が一般的ですが、改善しない場合も多いです。この患者様はステロイド治療を受けましたが、1ヵ月経っても改善がなく厳しい状況でした。
犬では原因不明の炎症性中枢神経疾患に間葉系幹細胞投与を行った小規模研究の報告があり、多くの症例で症状の顕著な改善が見られたとのことでした。そこで一縷の望みをかけてこの幹細胞療法(凍結他家、点滴)を受けられました。すると、数日経ったころからけいれんは起こらなくなり、歩く、自分の意志で行動するなど、症状が大きく改善されたのでした。その後、徐々に間隔を開けながら幹細胞療法を数回受けられました。大変難しい状況だった患者様がもう一度元気を取り戻して一緒に過ごせたので、飼い主様は大変喜ばれました。
しかし残念なことに、2ヶ月ほど過ぎたころから徐々に治療の効果が出なくなってきてしまい、状態がだんだんもとに戻っていってしまいました。どうしてそうなったのかはわからないところです。間葉系幹細胞療法は、奇跡的な効果が得られることもありますが、最適に使えるようになるまでにはまだわかっていない部分が残されているのも実情です。そのような課題を少しずつ明らかにしていくことが未来の動物のよりよい健康や福祉につながるので、努力していこうと思います。