膵炎症例への投与①
患者様(ミニチュア・ダックスフンド、9歳)は膵炎を発症されました。実はこの患者様は3年半ほど前から何度も繰り返し発症していました。膵臓は腸で食べ物の消化するための酵素を製造する大切な臓器です。急性膵炎になると食欲不振、嘔吐、下痢などの症状を起こし、お腹の痛みによりとても苦しがることがあります。重度になると命に関わります。発症してしまったら、早期に適切な治療を受けることが大切です。炎症が持続的に起こる慢性膵炎になると膵臓が硬くなって弱ってしまいます。
この病気になる原因はわからないことがほとんどです。飼い主様は患者様が膵炎を頻繁に発症することを大変心配されていました。何らかのきっかけがあると免疫が膵臓に対して攻撃してしまう体質になっていることも考えられました。間葉系幹細胞療法には炎症を抑える効果や、自分自身を攻撃してしまうように乱れてしまった免疫バランスを再度正常方向に整える効果があることが知られています。基礎研究では間葉系幹細胞を投与することで膵炎が改善することも示されていました。そこで、膵炎の標準治療に間葉系幹細胞療法(自家、点滴)を併用することで、患者様の体質が膵炎を起こさなくなる(もしくは膵炎の再発予防につながる)ことを期待しました。飼い主様に提案して実施しました。
間葉系幹細胞療法の実施後、まもなく膵炎が改善しました。その後、小さな嘔吐症状は1回あったものの1年以上、大きな問題はありませんでした。再度、膵炎マーカーが上がったので定期的に凍結他家移植法で間葉系幹細胞療法(点滴)を行っていくようにしました。膵炎の発症頻度は下がり、それらにしても1,2回程度の小さな嘔吐の症状のみで、さらに4年ほど良好に過ごされました。間葉系幹細胞療法で体質改善されて発症予防されたのではないかと考えています。また、思わぬ副効果ですが、間葉系幹細胞療法後、以前からずっとあった患者様の口臭がいつの間にか消えてなくなってしまいました。
膵炎症例への投与②
患者様(トイ・プードル、16歳)は、食欲がなくなり、活動性が下がってしまいました。嘔吐もありました。検査では炎症の数値が高く、膵臓の腫れと膵炎テストの陽性が確認されました。また、肝疾患症状の黄疸およびビリルビン尿もみられました。免疫介在性の膵炎および肝炎の診断でした。
飼い主様は患者様と離れるのは望まないとの強い希望で、入院はせず、病院でステロイド、輸液、制吐剤、抗生剤、肝機能改善薬を投与する通院治療を続けられました。症状や検査数値は一旦良くなった(膵炎テストはほぼ陰性)のですが、10日目にまた症状が出始め、12日目には状態がかなり悪化してしまいました(膵炎テストは再陽性)。ここでオプション治療として間葉系幹細胞療法(凍結他家)の併用を提案しました。ステロイドとは異なった作用で炎症を抑え、免疫を調節する効果が期待できます。組織の修復促進作用もあります。2回(2日間隔)の投与を行ったところ、まもなく食欲と活動性の改善がありました。炎症や肝機能の数値も徐々に改善していきました。間葉系幹細胞療法を開始して10日ほどで体調はほぼ改善し、1ヶ月ほどで血液検査数値も正常値に戻りました。間葉系幹細胞療法が何らか回復に貢献した可能性が考えられました。その後はステロイド量を1/8まで減らしたうえで、免疫調整作用を介した体調の維持・再発予防を期待して間葉系幹細胞療法を1ヶ月に1回に受けられました。
このような維持治療の甲斐もあってか、患者様は再発もなく良い状態でした。減っていた体重は徐々に回復しました。飼い主様は患者様が以前のように元気になり、大変喜ばれていました。このような時間を約2年過ごされ、患者様は18歳で穏やかに亡くなられました。