肺炎症例への投与①
患者様(ミニチュア・ダックスフンド、14歳)は食欲がなくなり、呼吸苦しそうとのことで来院されました。3日前に狂犬病予防注射をしたとのことで、毎年、狂犬病予防注射の後は調子が悪かったとのことですが、今回は特に調子が悪いとのことでした。呼吸器の症状がでていましたが、検査で間質性肺炎が見つかりました(免疫介在性と考えられました)。ステロイドを含む強力な標準治療を行いましたが状態の改善が全く見られず、飼い主様は大変心配されていました。
間葉系幹細胞療には炎症を抑える作用があります。加えて、間葉系幹細胞を静脈内に投与すると血流に乗って全身の血液が必ず通る肺(の微細血管)に着き、ここを通過して再び全身に循環していくのですが、この細い肺血管網を通過するのに手間取るので肺に一時的に大量に集積します。そのため、肺での炎症を強力に抑えてくれる可能性があります。飼い主様と相談して、標準治療とともに間葉系幹細胞療法を追加することを提案しました。飼い主様にご快諾をいただき、すぐに間葉系幹細胞療法(凍結他家、点滴)を実施しました。実施から数日後には呼吸状態が随分良くなり、全身の状態も改善が見られました。ただ、まだ激しく動くと呼吸は苦しそうでした。さらに1週間が経過すると、呼吸状態と全身状態がともに良好となりました。標準的治療に間葉系幹細胞療法を併用することで厳しい肺炎を改善することができたものと考えられます。
話が少し逸れますが、この患者様の治療は新型コロナウイルス流行よりも2年前のものですが、新型コロナウイルスの流行初期では重篤な肺炎への対応ができずに多くの方々が亡くなられました。しかし、海外の一部医療機関では早い段階から新型コロナウイルス肺炎患者へ間葉系幹細胞投与治療が実施されており、大きな改善につながると発表されていました。ただ、全世界的な流行にすぐに対応できる治療法ではないので現在大きな普及にはつながっていませんが、現在も研究・開発が続いています。